会社都合退職とは?助成金は受給できるのか
2026年06月15日
企業の経営者や人事担当者にとって、国から支給される「助成金」は、人材育成や労働環境の改善を進める上で非常に心強い味方です。
しかし、経営上の都合やトラブルなどで従業員に辞めてもらうことになった場合、「会社都合退職」として処理をすると、予定していた助成金が受給できなくなるという大きなリスクが潜んでいることをご存知でしょうか?
今回は、「会社都合退職とは具体的に何を指すのか」「なぜ助成金がもらえなくなるのか」「企業が取るべき対策」などについて解説します。
会社都合退職とは?自己都合退職との違い
退職には、大きく分けて「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があります。
自己都合退職
自己都合退職は、「転職したい」「家族の介護が必要になった」「病気療養に専念したい」など、労働者自身の個人的な理由による退職です。
自己都合退職の場合、退職者が失業保険(基本手当)を受け取るまでに原則2ヶ月の「給付制限期間」が設けられます。すぐに失業保険を受け取れないため、退職者にとっては経済的な負担が大きくなる退職方法でもあります。
一方で会社側としては助成金の受給要件に悪影響を及ぼすことは原則ありません。
会社都合退職
会社都合退職は、「企業側の事情や責任によって、労働者が退職せざるを得なくなった状況」を指します。
具体的には、以下のようなケースが会社都合退職に該当します。
業績悪化による解雇(リストラ)
経営破綻や事業所の閉鎖
退職勧奨(肩たたき):会社側から「辞めてほしい」と説得し、労働者がそれに応じて退職した場合
雇止め:期間の定めのある労働契約(契約社員など)で、労働者が更新を希望したにもかかわらず、会社側が更新を拒否した場合
また、後述しますが、当初は自己都合退職として処理していても、「労働環境が劣悪だったため辞めざるを得なかった」と客観的に認められた場合は、後から会社都合退職(特定受給資格者)に覆ることがあります。
「会社都合退職」で助成金が受給できなくなるのか?
結論から言うと、会社都合退職者を1人でも出すと、厚生労働省が管轄する「雇用関係助成金」のほとんどが、一定期間(原則として対象期間の前後6ヶ月間)受給できなくなります。
これには、助成金という制度の「根本的な目的」が大きく関わっています。
厚生労働省が支給する雇用関係助成金は、「労働者の雇用の安定」や「職場環境の改善」を目的として、それに協力・貢献した企業に対して支給されるものです。つまり、「従業員を大切にし、長く働ける環境を作っている企業を国が応援する」ための資金なのです。
それにもかかわらず、自社の都合で従業員を解雇(=雇用の不安定化)している企業に対して、国が「雇用の安定に貢献している」として助成金を支給するのは矛盾しています。そのため、助成金の受給要件にはほぼ必ず「事業主都合による解雇等をしていないこと」という一文が盛り込まれているのです。
「6ヶ月ルール」の恐ろしさ
多くの助成金では、以下の期間に会社都合退職者を出すとアウト(不支給)になります。
助成金の支給申請日の前日から起算して6ヶ月前の日から、支給申請日の前日までの間
助成金の支給申請日から、支給決定がされるまでの間
つまり、たった1人の会社都合退職を出しただけで、現在申請中の助成金がパーになるだけでなく、向こう半年間は新たな助成金の申請すらできなくなってしまうという、企業にとって非常に重いペナルティが課されることになります。
会社都合退職によって影響を受ける主な助成金
会社都合退職によって受給できなくなる(不支給となる)代表的な雇用関係助成金には、以下のようなものがあります。
■キャリアアップ助成金
有期雇用労働者(アルバイトや契約社員)を正社員化したり、処遇改善を行った際に支給される、最もポピュラーな助成金です。
■特定求職者雇用開発助成金
高齢者や障害者、就職氷河期世代など、就職が困難な方をハローワーク等の紹介で雇い入れた際に支給される助成金です。
■人材開発支援助成金
従業員に対して専門的な職業訓練等を実施し、スキルアップを支援した企業に支給される助成金です。
■両立支援等助成金
男性の育児休業取得や、仕事と介護の両立支援など、働きやすい環境づくりを行った企業に支給されます。
現在、これらの助成金の活用を計画している、あるいは申請中である場合は、退職者の扱いに細心の注意を払う必要があります。
要注意!後から覆る「隠れ会社都合退職」
企業側が最も注意しなければならないのは、「本人が退職届を出したから自己都合だと思っていたのに、後から会社都合退職にひっくり返された」というケースです。
退職者がハローワークに離職票を提出し、失業保険(基本手当)の手続きをする際、ハローワークの窓口で「実はこんな理由で辞めざるを得なかったんです」と申告することがあります。ハローワークが調査を行い、以下の事実が認められた場合、企業側の合意がなくても「会社都合退職(特定受給資格者)」として処理されてしまいます。
これを防ぐためには、以下のような「労働環境のブラック化」を未然に防ぐしかありません。
会社都合になり得る「正当な理由」の例
以下のようなことが、ハローワークで認定されると、企業は知らない間に「事業主都合による離職者」を出したことになり、後日突然、助成金窓口から「不支給決定」や「助成金の返還請求」の通知が届くという最悪の事態になりかねませんので、注意してください。
違法な長時間労働:離職の直前6ヶ月間のうち、連続する3ヶ月で45時間以上、あるいは1ヶ月で100時間以上の時間外労働(残業)があった場合など
給与の未払い・大幅な減額:賃金の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったり、従来の85%未満に減額された場合
ハラスメントの放置:上司や同僚からのパワハラ、セクハラなどが原因で退職し、会社が適切な対応をとっていなかった場合
過度な退職勧奨:執拗に退職を迫られ、精神的に追い詰められて辞めた場合
大幅な業務内容・勤務地の変更:採用時に約束していた労働条件と著しく異なる場合
企業が取るべき対策・対応
このようなリスクを回避し、助成金を安全に活用し続けるためには、企業として以下の対策を徹底することが重要です。
①日頃から労働環境を適正に保つ
最も重要なのは、「隠れ会社都合退職」の原因となる長時間労働やハラスメント、給与の未払いなどをなくすことです。タイムカードによる正確な労働時間の把握、ハラスメント相談窓口の設置など、コンプライアンス(法令遵守)を意識した労務管理を徹底しましょう。
②退職勧奨は慎重に行う
どうしても辞めてもらいたい従業員がいる場合でも、無理やり自己都合退職に見せかけるのは違法かつ危険です。退職勧奨を行う際は、強要にならないよう面談の記録を残し、双方が納得した上で合意退職の形をとるようにします。ただし、合意退職であっても、退職勧奨によるものは「会社都合」扱いとなり助成金に影響するため、助成金の受給スケジュールとの兼ね合いを経営的視点から慎重に判断する必要があります。
③「退職届」を必ず書面で受け取る
自己都合退職の場合は、「一身上の都合により退職します」と明記された退職届(または退職願)を必ず本人の直筆で提出してもらい、会社で保管してください。後で「会社から辞めろと言われた」と言いがかりをつけられた際の重要な客観的証拠になります。
④専門家(社会保険労務士)に相談する
退職トラブルや助成金の要件は非常に複雑で、法律の知識が不可欠です。少しでも不安がある場合や、問題のある従業員の対応に苦慮している場合は、自己判断で動く前に、労務管理と助成金のプロである社会保険労務士(社労士)に相談することを強くお勧めします。
まとめ
「会社都合退職」は、労働者にとっては失業保険が早くもらえるなどのメリットがありますが、企業にとっては「雇用関係助成金が半年間受給できなくなる」という非常に大きな痛手となります。
目先のトラブル解決のために安易に解雇や退職勧奨を行ったり、劣悪な労働環境を放置して「隠れ会社都合」を引き起こしたりすることは、結果的に数百万円単位の助成金をフイにするリスクをはらんでいます。
助成金は、ルールを守って健全な経営をしている企業へのご褒美です。これを機に、自社の退職手続きや労務管理のあり方を見直し、従業員にとっても企業にとってもプラスとなるクリーンな職場環境づくりを目指していきましょう。
