給与デジタル払いとは?現状と課題を解説
2025年04月30日
給与のデジタル払い(デジタル給与)は、2023年の法改正により日本でも解禁されました。
世界的に見ると日本はまだまだキャッシュレス後進国。デジタル給与が始まり、さらに急加速することが期待されていましたが、制度開始から約2年が経過した現在でも、導入企業はごく少数にとどまっています。
今回は、給与デジタル払いの仕組みやメリット・デメリット、導入状況、普及が進まない理由について解説します。
給与デジタル払いとは
給与デジタル払いとは、企業が銀行口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して従業員に給与を支払う仕組みです。
2023年の法改正により、資金移動業者を通じた給与支払いが可能となりました。
これにより、従業員は現金を引き出すことなく、給与を即座に利用できるようになります。
メリットとデメリット
給与デジタル払いにはメリットもデメリットもあります。それぞれ順に確認していきましょう。
メリット
まずは給与デジタル払いのメリットから見ていきましょう。主なメリットは次のとおりです。
・支払いの即時性が高まる
・振込手数料の削減
・銀行口座を持たない従業員にも支給可能
・キャッシュレス社会への対応
・経理業務の効率化
給与デジタル払いでは、従来の銀行振込と異なり、即時に支払い処理が行える場合が多く、特にフレキシブルな勤務形態の従業員に対する支給スピードが向上します。
また、銀行振込では従業員ごとに振込手数料が発生するのが一般的ですが、デジタル払いでは資金移動業者を通じた一括送金が可能で、トータルのコストを抑えやすくなるでしょう。
外国人労働者や未成年者など、銀行口座を持たない従業員にも対応できるのも大きなポイント。従来であれば現金手渡し対応が必要だったケースでも、スマートフォンを使った支給が可能となり、利便性が向上します。
さらに、社会全体のキャッシュレス化が進むなかで、給与もキャッシュレスで受け取れることにより、日常の決済との相性が◎。紙の明細や手続きの削減によって、経理部門の業務負担も軽減できるでしょう。
デメリット
続いてデメリットを見てみましょう。主なデメリットは以下のとおりです。
・対応できる資金移動業者が限定的
・労使間の合意が必須
・全従業員への一律対応が難しい
給与デジタル払いは2023年に法制度上解禁されましたが、対応できる資金移動業者は政府の認定を受けた一部の事業者に限られています。そのため、選択肢が少なく、導入時の自由度が低いことも課題。
また、労働基準法の観点から、給与のデジタル払いは「本人の同意」が必要不可欠です。強制的に導入することはできず、従業員1人ひとりの理解と合意形成に時間がかかります。
さらに、デジタル払いを歓迎する層がいる一方で、高齢者やスマートフォンを使い慣れていない従業員などには不安がある場合も。全従業員にとって公平・安心な制度として運用するには、柔軟な選択肢と説明体制が求められます。

導入状況と普及が進まない理由
2023年4月に制度が解禁された給与のデジタル払い(資金移動業者を通じた給与支給)ですが、導入している企業はごく一部にとどまっています。
例えば、厚生労働省の資料によると、制度開始から半年後の2023年10月時点で、デジタル払いの認可を受けた資金移動業者はわずか数社。そのため、実際にこの制度を活用して給与を支払っている企業は、試験導入や一部部署での運用にとどまっており、本格的な普及には至っていません。
特に中小企業においては導入例が少なく、大企業でも制度に関心はあるものの、様子見の段階という声が多く聞かれます。
普及が進まない理由の主な理由は以下のとおりです。
・資金移動業者の選択肢が少ない
認可を受けた事業者がまだ限られており、選定の自由度が低いことが足かせとなっています。
・制度の理解不足
企業・従業員ともに制度の詳細が十分に伝わっておらず、誤解や不安を抱えているケースが多いです。
・既存の銀行口座支給で問題がない
現在の銀行口座振込で運用上の課題が少ない企業にとっては、あえて変更する理由が見出しづらいのが実情です。
・セキュリティリスクへの懸念
アカウントの不正利用や情報漏洩など、デジタル特有のリスクに慎重な姿勢をとる企業が多いです。
・従業員のニーズが低い
多くの従業員はすでに銀行口座を保有しており、「給与は銀行振込でいい」と考える人が多数。利用希望者が少ないため、企業としても踏み切りにくいのが現状です。
今後の展望
政府はキャッシュレス決済比率を80%まで引き上げる目標を掲げており、給与デジタル払いの普及もその一環として期待されています。
今後、制度の周知やセキュリティ対策の強化、企業への支援策などが進めば、導入企業が増加する可能性もあるでしょう。
まとめ
給与デジタル払いは、キャッシュレス社会の実現に向けた重要な取り組みの一つです。しかし、現時点では導入企業が少なく、普及には課題が多いのが現状。今後、制度の理解促進やセキュリティ対策の強化などを通じて、より多くの企業での導入が期待されます。